2010年07月19日 千葉マリンスタジアム

習志野vs拓大紅陵

2010年夏の大会 第92回千葉大会 4回戦


習志野の大黒柱・山下斐紹

走攻守3拍子捕手・山下斐紹、「ここぞ」で見せた大黒柱の証

千葉マリンスタジアムへ向かうタクシーのドライバーさんが「きょうはマリーンズの試合でもいないくらい、人が来ているよ」と笑いながら話してくれたが、実際収容3万人のスタジアムはバックネット裏から内野席の一部まで人で埋め尽くされていた。
10日に開幕した第92回夏の甲子園千葉予選はまだ中盤の4回戦。ただ、昨夏の準優勝校・拓大紅陵と今春の関東準V・習志野が激突した大会屈指の好カードは、約1万3000人の高校野球ファンを千葉ロッテマリーンズのホームスタジアムに詰め掛けさせていた。

試合はファンの期待通りに白熱した。そしてプロ注目捕手、習志野の山下斐紹が試合を決めた。初回裏に習志野が4点を先取した試合は、習志野先発の2年生右腕・泉澤涼太が初回に3連続三振(2番打者は3バント失敗)を奪う快調なスタートを切ったこともあり、習志野サイドに流れが傾いたかと思われた。

だが、拓大紅陵はビハインドにも慌てず、着実にランナーを進めながら反撃する。2回に1点を返すと4回には4番海保駿輔がエンドランを決め、6番内海城二の一塁線スクイズが内野安打となるなど2点を追加。そして6回、相手のミスで走者を3塁へ進めると、内海の左前打でついに同点に追いついた。さらに8回表1死、3番中野拓躍が2-1から高めのボールに喰らいつく。快音を残した打球は左翼席へと吸い込まれる勝ち越し本塁打となった。

「不細工な試合でした」。
最終的に試合を制した習志野・小林徹監督が憤りを含めて漏らしたが、無死2塁でのバント失敗やライナーで戻れずダブルプレーになるなど習志野にとっては決して内容のよい試合ではなかった。ただ、習志野は8回裏に3点をもぎ取って逆転勝ち。苦しんだチームを救ったのは注目の4番山下だった。

8回無死2、3塁。左打席に立った背番号2はインコースのスライダーを引き付けてからきっちりと捌く。鋭い弾道を描いた打球はあっという中堅手の頭上を越えていった。同じ左打者でもある巨人の阿部慎之助捕手を意識しているという山下は、目標の選手と同じパワフルな打撃と、全く異なるスピードという才能も披露し、難なく3塁を陥れた。この痛烈な一打で逆転した習志野はその後1点を加えて7-5で勝利。昨夏、春夏連続出場の夢を阻まれた拓大紅陵の壁を突破した。

自分のミスは自分のバットで。8回表、拓大紅陵・中野に高めのボールを本塁打されたのは「高めは打てないな」と安易にハイボールを要求した山下の配球ミスだった。ただ、「失敗を『チクショー』と次返すところがあの子のいいところ。倍返しにしてくれた」と指揮官も目を細める責任感の強さ、勝負強さがドラフト候補・山下の特長だ。いくら打率が6割~7割打っている打者でも「ここぞ」というところでバットが湿ってしまう打者がいる。そのような選手はいくら主力であったとしても、本当の中心選手とはいえないのだ。

仲間が打ってほしい時にこそ打つ。この日の山下はまさにその枠に当てはまった。正直なところ、8回の好機で回ってきた山下が勝負を決める一打を放つとは思っていなかった。1死2、3塁で回ってきた初回こそ外角のスライダーを右翼前に運んでいたが、その後は拓大紅陵の左腕、加藤貴之のシュート系の直球に全くタイミングが合わず、2打席目と3打席目は全8球のうち5球が空振り。投手側に突っ込んで軸のブレたスイングは何度も空を切った。本人も「悩んでいた」と素直に明かしていたが、拓大紅陵バッテリーも8回のピンチで抑える自信があったのだろう。1塁の空いている状況で4番と勝負。ただ「チャンスだったんで来る球をとにかく打つつもりだった」と最高のモチベーションだった山下は、最高の一打で試合をひっくり返した。

山下は「ここまで来たら(この夏には)もううまくはならない。打てたのは日ごろの練習の成果」。その成果を見せた勝負強い打撃と50m走5秒9の快足は驚きの対象。そして強肩は「さすがだった」。2回2死1塁、2年生投手・泉澤の投球が1バウンドになるが、前へ弾いた山下はスタートを切った1走・西村柊平を「今大会、ああいう場面で初めて走ってきた。刺せてよかった」と2塁で刺殺。さらに同点に追いつかれた直後の6回1死1塁ではエンドランから2塁を狙った内海を刺して再び仲間を助けた。相手の仕掛ける勇気も萎えさせそうな鉄砲肩。「今大会は盗塁されたくない」と言い切らせた強肩が、今後も相手の脅威となることは間違いない。

この試合通じて6度あった空振りは猛省してほしいが、確かに捕手としては珍しい走攻守3拍子の才能。特に足と肩、そして「ここぞ」で見せた輝きは上でも戦える武器になりそうだ。また9回2死からわざわざマウンドへいき「絶対簡単にいくな」と引き締める親分的な雰囲気も魅力。アスリート能力を活かして外野手転向など考えずに捕手一本を貫いてほしいと思わせるタレントだった。

(文=吉田 太郎

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