第2回 センバツ準優勝校・花巻東の取り組み2009年04月21日

写真提供:宮坂由香 (HP)
こんなチーム、今まで見たことはない。
4月2日に閉幕した第81回選抜高校野球大会で準優勝を果たした花巻東のことである。エースでドラフト候補左腕・菊池雄星の存在ばかりが取りざたされるが、このチームの取り組む姿勢には実に驚かされたものだ。
まず、その始まりとなったのは試合前にチームに義務づけられている試合前取材でのことである。
通常、甲子園に出場するチームには試合開始の2時間前から(第1試合の場合が1時間半前)約15分間の取材時間が設けられている。
一塁側のチームから先に行われ、終わり次第、3塁側を行う。場所は室内練習場。一塁側のチームは、一塁側室内、三塁側のチームは三塁側室内と決まっている。
ただ、その室内練習場というのは人が大勢通るのには実に、狭苦しいところである。室内練習場に入るのには扉があるし、そこを大勢いる報道陣をかき分けながらいかないといけない。室内に入ってからも、鳥かごゲージなどがあり、ネットが張り巡らされていて、非常に邪魔なのだ。
異変に気づいたのは、その時の花巻東ナインの行動だった。ベンチ入りメンバーは取材を受けるが、それ以外の選手が、扉やゲージのネットを支えてくれているのである。取材時間の間、控え部員が報道陣に気遣っているのだ。
僕は甲子園取材をするようになって7年にもなるが、こんなことをしてくれたのは花巻東が初めてだ。この心づかいには非常に驚いた。1回戦の時に、彼らの行動を目にしたのだが、その時、このチームには何かあると匂った。
だから、彼らが勝ち上がるたび、花巻東の指揮を執る佐々木洋監督には執拗に、野球以外のことを聞いた。すると、指揮官は野球以外に力を入れることの重要性を語ってくれた。
「野球の技術そのものが、この後の人生に役立つかといったら、そうではないと思うんです。菊池は150キロを投げましたけど、それが人生に役立つわけではない。野球を通して、取り組む姿勢とか、考え方を学んでほしい。」。
室内練習場での一件はそうした指揮官の想いが選手に伝わっての行動だった。日ごろからの指導理念が浸透している証拠である。ただ、そうした野球以外の心の姿勢が野球に生きていないわけではない。心があるからこそ、チーム力はまとまり、高い組織力を有することができるのだ。

写真提供:宮坂由香(HP)
花巻東の野球で、感心させられたのは、全力疾走とカバーリングの徹底力である。全力疾走はどんな打球であれ、最後まで全力を尽くすことである。体調や状況によって、力を抜いてしまいがちであるが、「しんどい時にこそ頑張ることが力になる」という佐々木監督の指導のもと、全力を出し続けている。また、戦術として、対戦相手にとっても、簡単なゴロで全力疾走する姿勢にプレッシャーがかかるということも、少なからずあるだろう。
カバーリングは、この行為こそ、心の姿勢があるからこそ徹底できる要素である。とにかく、花巻東のカバーリングは細かい。「ボールが動けば、人が動く」という表現がしっくりくる。投手の菊池が一塁のけん制をすれば、右翼手と二塁手が反応に動き、中堅手も備える。一塁手が投手にボールを返す時には三塁手と左翼手がカバーリングに反応。遊撃手は二塁ベースに着く。
当然のこととはいえ、これだけ徹底できるのはなかなかできることではない。カバーリングほど、成果の見えないランニングはないからだ。出足の早いカバーリングを見せていた、左翼手・山田隼弥が大会中にこんなことを話してくれた。「カバーリングに行っていれば、投げる方も後ろにいてくれると信頼して、失敗を恐れずに思い切りプレーできる」。気を配ることの大切さを理解しているからこその言葉であろう。
いわば、花巻東のチーム力には普段の気配り・心配りがあり、野球面では全力疾走・カバーリングという、成果の見えないものに全力を尽くす姿勢が何よりの強さなのだ。今大会、花巻東の戦いぶりでは終盤での粘りが目を引いたが、そうした終盤での強さが発揮されるのも、日ごろからの積み重ねがあるからなのだ。主将の川村悠真は胸を張っていう。
「全力疾走やカバーリングは無駄に走ることで、しんどいことなのですが、技術の高い低いに関係なく、できることだと思うんです。挨拶とか礼儀もそうなんですけど、全力疾走とカバーリングは全国のどのチームよりも、自分たちが一番徹底してやっているという自信はあります」
全国優勝こそ果たせなかった花巻東だが、このセンバツでは、もっとも印象に残ったチームとして、紹介しておきたい。

- 氏原 英明
- 生年月日:1977年
- 出身地:ブラジルサンパウロで生まれる
- ■ 高校時代から記者志望で、新聞記者になるのが将来の夢だった。
- ■ アトランタ五輪後に、スポーツライターに方向転換。
- ■ 大学を卒業後、地元新聞社に所属。
- ■ その後スポーツ記者として、インターハイなど全国大会の取材も経験させてもらい、数々の署名記事を書く。
- ■ 03年に退社。フリー活動を開始。
『週間ベースボール』、『ベースボールクリニック』(ベースボールマガジン社)、『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)『ホームラン』(廣済堂出版)、『Number』(文藝春秋)、『Sportiva』(集英社)、『高校野球ドットコム』『ベースボールファン』などに寄稿。フリーライターとしての地位を固める。
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